西欧中心の歴史観でなく、イスラム、仏教、それに特殊な存在としての日本にも着目して、各文明国の発展を描いた『歴史の研究』(原著1934-1961年)を著す。1911年、オックスフォード大学卒業。アテナイの考古学院の研究生としてギリシアに行き、帰国後、母校で研究員としてギリシア・ローマの古代史研究と授業にあたる。1912年、キングス・カレッジ・ロンドンで歴史学の教授に就任。1914年の第一次世界大戦の勃発により「われわれは歴史の中にいる」という実感に目覚める。1929年には太平洋問題調査委員として来日。この際に松本重治との友情を深めた。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授、王立国際問題研究所理事、外務省調査部理事等を務める傍ら『ギリシャ歴史思想』『平和会議後の世界』等を執筆。最も有名な著書『歴史の研究』は全25巻。
日本語版への原著者の序
歴史を眺める際に、我々全て、我々の見地が、たまたま我々のおのおのが生まれた時代と場所によって、大部分決定されていることに気づく。人の見方は、要するに、特定の個人、特定の国民、特定の社会の見方である。歴史をあるがままの姿において見ようとするならば、われわれは、最初はどうしてもそこから出発するほかない、この局部的な見方を超越しなければならない。完全にそれを超越することは不可能としても、我々の歴史家としての成功は、どの程度、局部的見方を脱して全体的な見方に達しうるか、ということにかかっている。そうすることは、いつの時代においても重要なことであるが、現代のことく、全人類が1つの社会に総合され、それぞれの地方的社会の過去が全体の共同の過去となろうとしている時代においては、とりわけ重要である。私自身はたまたま西欧人であり、したがって私のかかっている近視は、この普遍的な欠陥の西欧的な形態であることに相違ない。『歴史の研究』を書いているあいだ、私は絶えずこの限界を意識し、それを乗り越えるために最善を尽くしたつもりであるが、果たして成功したかどうか、私にはわからない。
『歴史の研究1』<サマヴェル縮刷版>より
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