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生活保護は遠慮なく受けていいよ
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アインソフ談】
【転載】生活保護申請に同行してわかった水際作戦。申請書を渡さないのは職務放棄である。
水際作戦とは
法律上の根拠がない「水際作戦」
後でわかったことだが、俗に水際作戦と呼ばれる窓口指導は、法律上の根拠を持たない事実行為であること、いわゆる行政指導の一つであることだ。
この窓口指導については行政手続法33条に申請に関する注意規定がある。
申請の取下げ又は内容の変更を求める行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、申請者が当該行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず当該行政指導を継続すること等により当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならない
さらに同法35条では、
Ⅰ:行政指導に携わる者は、その相手方に対して、当該行政指導の趣旨及び内容並びに責任者を明確に示さなければならない。
Ⅱ:行政指導が口頭でされた場合において、その相手方から前項に規定する事項を記載した書面の交付を求められたときは、当該行政指導に携わる者は行政上特別の支障がない限り、これを交付しなければならない。
となっている。
この立法趣旨について、行政法学者の櫻井敬子氏はこのように書いている。
このタイプ(申請に関する)の行政指導は、実際上極めて強い威力を発揮してきたが、・・・問題が多い。なぜなら、行政庁が、申請書を受け付けたにもかかわらず処分しないということであれば、行政事件訴訟法により義務付け訴訟等で争うことができる。しかし、法的に申請自体がなされていないということになると、抗告訴訟に持ち込むことができず、しばしば「申請書を出した、出さない」という水掛け論になってしまう。ともすると、申請者側(注:本文では業者側となっている)には何ら救済手段がないことにもなりかねず、法治主義の観点からすこぶる問題である。
そこで、この類型の行政指導について、行政手続法は、申請者が行政指導に従う意思がない旨を表明した以上は行政指導を継続してはならないことを明示するとともに(行政手続法33条)、申請について到達主義を採用し、行政庁は遅滞なく審査を開始しなければならないとした(同7条)。
これにより、法律上は申請書を「受理」しないという運用は認められなくなったが、行政指導の性格上、相手方が任意に応じる限り、それが事実上行われていることを阻止することはできない。このタイプの行政指導が今後なくなるかどうかは、国民の側が指導を行おうとする行政当局に対して意識的な対応をなし得るかどうかにかかっている。(「行政法」櫻井敬子他より)
「水際作戦」の内容を書面化させること
そして、35条2項により、行政担当者に対して水際作戦の内容とその責任の所在を明確化・書面化することを要求することで、「密室における内輪の関係」から「緊張感のある外部関係」(「行政法のエッセンス」櫻井敬子より)に事態が変わるということなのである。
行政指導では生活保護受給希望者が任意で応じているというフィクションがとられるのだが、35条Ⅱの請求権を行使すれば水際作戦の違法な内容はとても書面化できないため、その責任の所在を明確にすることもできない。したがって、その時点でそのようなフィクションは成立しなくなる。
ここが重要なので繰り返す。担当者に対して水際作戦の内容とその責任の所在の書面化を要求すること。録音もするべきだろう。
「水際作戦」に応じないで、申請書を要求しよう
生活保護を申請しようとした人の中にはこの水際作戦でたいへん嫌な思いをしている人がたくさんいるだろうから、もうそんな経験はごめんだという方は、申請書を先に書いて有無を言わさず出してしまうか、配達証明付内容証明という方法でもいい。生活保護申請は要式行為だが、役所の申請用紙は必要なく自分で勝手に文書を作ればいいのだ。
その後、法改正がされて、役所備え付けの申請書を提出することが要件化された。単刀直入に、無駄話(水際作戦のこと)につきあっている意思はないので、申請用紙をくださいと言うべきである。
生活保護は車を持っていても申請できる
車を持っていると生活保護の申請はできないのだろうか。あるいは、親族がいると、生活保護は受けられないのだろうか。これらのことについては、日弁連の資料がたいへん役に立った。
すなわち、
①車を持っていても、通勤やその他必要性があれば換価する必要がないこと。
②親族への援助は強制できないこと(ただし、親族照会は避けられない)。
である。
生活保護担当者はそのことを熟知しているはずなのに、どうして平気でウソをつけるのだろうか。
生活保護の扶養照会はどこまでか
生活保護の扶養照会に関する法律
生活保護の扶養照会というのがある。これはほぼ避けられないのが現実のようだが、法律上の根拠があるのかどうか、あるとしてどこまであるのかについて調べてみた。
扶養の順序、程度、方法等については当事者間(ここでは扶養請求権者と生活保護課(福祉課のこと)の協議で定めることになっているが、その協議が不調または不可能な場合には、家庭裁判所が定めることになっている(民878条、879条)。
保護の実施機関がこれに代わって当事者間の協議を調整することはできない。扶養義務者が十分な扶養能力を持ちながら扶養義務の履行を拒む場合、保護の実施機関は、原則として保護を行い、後に家庭裁判所の決定を得て扶養義務者から費用徴収を行うことになる(生保77条1項)「社会保障法」西村健一郎著P505)
生保77条
民法の規定により扶養の義務を履行しなければならない者があるときは、その義務の範囲内において、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の全部又は一部を、その者から徴収することができる。
2前項の場合において、扶養義務者の負担すべき額について、保護の実施機関と扶養義務者の間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、保護の実施機関の申立により家庭裁判所が、これを定める。
さて、ここでいう扶養義務者だが、2種類に分けられる。ひとつが、「生活保持義務」。もうひとつが「生活扶助義務」である。前者は、「自分の生活と同質・同程度の生活を保持できるように扶養する義務のことであり、夫婦間や子供に対する親の関係で成立する。後者は、「生活に余裕のある場合に、その限度で扶養すれば足りる」とし、それ以外の親族間(注:3親等以内の直系血族、兄弟姉妹)で成立する(ただし、民877条Ⅱの3親等内の親族にも注意)。
民法第877条
1直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
2家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
親族・親等図
【「家族法」二宮周平著より拝借しました】
生活保護は世帯単位なため過度の扶養義務を押し付けている
よく問題になりそうなのが、年老いた親の扶養義務である。これは「それ以外の親族間」にあたるから、生活保護法による最低の生活保護基準額に不足する部分を、自分の社会的地位や収入等に相応する生活をしたうえで、まだ「余力がある限度」で分担すればいいはずである。
が、現実の生活保護の運用では世帯を単位としているために、同居している場合は同一世帯を営んでいることになるから、年老いた親とたとえばその息子の全収入が生活保護要否の基準とされることになるため、民法上の扶養義務(余力がある限度)を超えるような義務を事実上強制する結果になっている。
扶養照会についての生活保護実務での扱い
ところで、生活保護実務ではやや扱いが異なるようだ。
①絶対的扶養義務者
②相対的扶養義務者で、現に扶養をしている人または、過去にその世帯から扶養を受けていた等の特別な事情があるもの
①の絶対的扶養義務者とは、3親等以内の直系血族、兄弟姉妹、配偶者を指し、②の相対的扶養義務者とは、3親等以内の傍系姻族を指す。民法877条の1項と2項からの区分に基づくようである。
①については「絶対」とあるように扶養照会がいく(ただし、特別の事情があれば回避できる)。②については、過去または現在、扶養の事実があるかどうかで扶養照会されるかどうかが決まるようである。
MEMO
生活保護実務での「絶対的扶養義務」とか「相対的扶養義務」について、「この区別は、家庭裁判所の審判があって初めて扶養義務者の範囲に入ってくるかどうかの区別であり」(前掲・二宮本より)としており、生活保護実務はそれをいわば「先取り」しているわけである。
不正受給者は生活保護受給者のうちのごく一部である事実
日弁連資料である上図をみてほしい。マスコミなどでは、なにかというと不正受給者のことが話題になるが、交通事故で不当な要求をする人がごく一部なのと同様に、不正受給者も生活保護受給者のうちのごく一部なのである。
元福祉職員が言うように、生活保護受給者の中には問題のある人もたしかにいるだろうが、それをいうのだったら、交通事故被害者にだっていくらでもいる。このように不当な要求をする人に調査員時代私自身多く会っている。それでもこういう悪質な人は、やはりごく一握りである。
そのごく一握りの人たちをとりあげて、その他の多くの善良な人の存在を無視し一般化する。
たとえばむち打ち症で長く苦しんでいる方に対して、あれは詐病だ、きっと保険金目当てにちがいない。一部にはそういう不届者がいるだろうが、それを全部に拡張する。
それは「蟹は甲羅に似せて穴を掘る」のと同様に、自分に似せて他人を矮小化させているだけだろう。自分だったら被害者の立場を利用して、お金をジャンジャン要求する。だから、他人もそうするに違いないと考えるのだ。そういうのを「べったりリアリズム」(注)ともいう。自分の周辺の人をみたらどうか。そんな人がそんなにいるだろうか。
注)べったりリアリズム
自己と世界あるいは他者を区別せず、みずからの具体的な経験を無媒介に法則化する考え方。このような考え方に対する内省と批判は、戦後日本思想史における大きな課題の一つになっている。講談社文庫「戦後日本の思想」の久野収と鶴見俊輔の対談部分参照P186‐
「富山は日本のスウェーデン」なわけない
◇生活保護の大問題は、低すぎる捕捉率
研究者の推計でも、捕捉率は2割に満たない
厳しい運用、冷たい対応、恥の意識
貧困状態なのに、利用していない人がたいへん多い
生活が苦しくても我慢する人が多いわけです
#ベーシックインカム https://bit.ly/2mhSmm8
生活保護を何度か申請した人がいたが、受け付けてもらえない。で、自殺しようと、東尋坊から海に身投げしようとした。寸前で、近くの人に助けてもらった。役所も責任問題になることを嫌って、その後すぐに申請が通った。こうでもしないかぎり申請を受け付けないのだから、受給率が低いのも当たり前。
生活保護を何度か申請した人がいたが、受け付けてもらえない。で、自殺しようと、東尋坊から海に身投げしようとした。寸前で、近くの人に助けてもらった。役所も責任問題になることを嫌って、その後すぐに申請が通った。こうでもしないかぎり申請を受け付けないのだから、受給率が低いのも当たり前。
ちなみに、石川・福井・富山の北陸3県は、全国的に知られた生活保護受給率の低いところである。そのことを評価し誇りにして、「富山は日本のスウェーデン」などと暮らしやすいものと勘違いした学者がいたが、いわゆる水際作戦の実態がわかっていないだけだろう。
先進国と比べて最低レベルの日本の社会保障
ところで、政府は社会保障費、とりわけ生活保護費の削減にまい進している。これは小泉改革である行政改革以降進められている政策を踏襲したものだ。現・安倍政権下ではさらにひどくなっている。
GDPに占める社会保障支出の割合が3年連続で減少しているとして、「こんなことは、『自然増削減』を繰り返していた小泉内閣でも起こらなかった」と、赤旗が報じている。
しかも、国際比較でいうと、日本の社会保障は先進国中最低、とりわけ生活保護予算はその低い低い社会保障費の中でもきわめて低い(GDPに占める生活保護費の割合はたった0.3%【注】)。そんなに低いのにまたさらに下げるつもりなのだ。
【注】少し古いが、こちらのサイトの記事(Afternoon Cafe)が詳しい。
さらに、親族側に扶養が困難な理由を証明する義務を課すという事実上扶養を生活保護利用の要件とする法改正まで検討されている。こんな法改正を許してしまったら、現行の生活保護法は完全に骨抜きにされ、戦前の救護法の精神に逆戻りである。
生存権に基づく権利としてではなくて、国家の責任放棄による自己責任化、単なる国家による施しと化してしまう。どんなに頑張って働いても、親族に働かない・働けない・無年金等で困窮している人間がいれば、 その人に稼ぎを吸い取られてしまうという無限地獄のようなシステムだ。こんな馬鹿げた法改悪を許してはならない。
【救護法】
同法(救護法)は、1932年に施行されたが、65歳以上の老衰者、13歳以下の幼者、妊産婦、障害のため労働不能の者で、貧困のため生活できない者を対象とし、市町村長の救護義務を定め、公の義務として救済を行う建前をとった。もっとも、扶養能力ある扶養義務者がいるときは救護は受けられず、また、保護請求権が認められたわけではなかった。
保護の要件について定めた生活保護法4条1項の規定は、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」と定めている。これに対し、生活保護法4条2項は、「民法に定める扶養義務者の扶養は保護に優先して行われるものとする」と定め、あえて「要件として」という文言を使ってい」ない。「扶養が保護に優先する」とは、保護受給者に対して実際に扶養援助(仕送り等)が行われた場合は収入認定して、その援助の金額の分だけ保護費を減額するという意味であり、扶養義務者による扶養は保護の前提条件とはされていない。
(参考)社会保障法入門・西村健一郎著
さらにさらに、最低賃金よりも高いとか、全世帯で収入が下から1割にあたる低所得世帯の生活費と比較して、生活保護受給者のほうが高いなどと言って生活保護費を下げることに執着している(注)が、下記の統計からもわかるように、事実は、申請を拒否されるなどして本来であれば生活保護を受けてしかるべき人たちが大勢いるのだ。生活保護の捕捉率のこの低さに注目していただきたい。
【日弁連HPより引用】
(注)最近の例としてはこれ。
生活保護費、最大1割下げ
厚労省、5年ぶり見直し福井新聞 2017年12月8日 午前2時00分
厚生労働省は7日、来年度の生活保護費見直しで、食費や光熱費などに充てる「生活扶助」を最大1割程度、引き下げる検討に入った。年齢や世帯形態によって増額となるケースもあるが、一般の低所得世帯の消費支出より支給額が多いとの調査結果を踏まえ、見直しが必要と判断した。
生活扶助の支給水準は5年に1度見直している。全体では前回2013年度に続き2回連続で引き下げとなる見通し。都市部を中心に高齢単身世帯などが多く含まれ、反発が強まりそうだ。
一部の子育て世帯で減額幅が大きいため、厚労省は別の案も検討している。
まとめ
厚労省は生活保護を違法に運用している。違法行為の第1は生活保護の申請を窓口で蹴散らす窓口指導である。申請者に申請書を渡さないのは職務放棄のはずだが、各地の自治体で横行している。第2は「就労指導」という建前で受給者に嫌がらせや脅迫を行い、生活保護を辞退させることにやっきになっている。
厚労省は違法な切り捨てによって、生活保護を受けられない貧困者を増やし、人為的に「生活保護の方が高い」状況を作っておきながら、その上で生活保護基準の切り下げを行おうとしているのである。これでは、厚労省主導のマッチポンプによる貧困拡大策と表現するしかないではないか。
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